経営者の離婚で多い問題・リスクは?財産分与など注意点を解説
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
会社経営者は、仕事が忙しく家族と過ごす時間が取りにくい理由などから、“離婚率が高い”、“離婚が多い”といわれています。
夫婦の一方が会社経営者の場合は、そうでない場合と比べ、離婚する際に特有の問題が生じやすいです。なかでも、会社経営者は高収入であるケースが多く、財産分与について揉めやすい実情があります。
本記事は、「経営者の離婚」に着目し、経営者の離婚で多い問題やリスク、特に注意が必要となる財産について、詳しく解説していきます。
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経営者の離婚で多い問題・リスク
会社経営者が離婚する際は、次の離婚条件をめぐって争いになるケースが多いです。
- 財産分与
- 慰謝料
- 親権
- 養育費
- 雇用関係
これらの条件は、通常の離婚でも問題になりやすいですが、会社経営者の場合は高額になる可能性が高く、一般的な夫婦の離婚よりも争われやすい傾向にあります。なかでも「財産分与」は、対象となる財産分与の範囲が広いなどの問題が生じるため、注意が必要です。
雇用関係は、一般的な夫婦の離婚では協議する必要のない条件ですが、夫が経営者で妻を従業員として雇用している場合は、雇用関係について協議する必要があります。
会社経営者が離婚する際の「財産分与」
会社経営者が離婚する際の財産分与では、原則として「経営者個人の財産」のみが対象となります。会社名義の財産は、基本的には分与の対象外とされ、個人の財産とは別のものとみなされるためです。
ただし、会社と個人の財産の境界があいまいな場合には、会社名義の財産であっても、実質的に夫婦の共有財産と判断され、財産分与の対象になる可能性があります。
また、経営者が個人の財産を会社名義に変更するなどして、財産を意図的に隠した場合も、隠された財産が分与の対象と認められるケースがあります。
離婚時の財産分与についての基礎知識を詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
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財産分与の割合はどうなる?
財産分与は、夫婦で協力して築いた財産(共有財産)を、基本的には2分の1ずつの割合で分け合うものです。しかし、一方が会社経営者で、配偶者が専業主婦(主夫)である場合などには、財産形成の貢献度にかなりの差が生じ得るため、財産分与の割合が修正されることがあります。
例えば、事業を拡大できたのは経営者本人の才覚や能力によるところが大きいようなケースです。この場合、共有財産の形成において経営者個人の貢献が大きいと評価される可能性があるため、分け合う割合を2分の1より多くできる余地があります。
特に注意が必要となる財産
- 動産
- 有価証券
- 退職金
会社経営者の財産分与では、分け合う対象物にもご注意ください。会社経営者の場合、保有している財産が多くなりがちですので、財産分与の対象になる財産も多くなることが予想されます。
対象物になり得るのは、預貯金や不動産(家・土地等)など様々なものがありますが、会社経営者の場合、特に動産・有価証券・退職金に注意が必要です。
動産
動産とは、「家や土地などの不動産を除くすべての財産」で、自動車や家具、時計、貴金属、骨董品などを指します。会社経営者は高収入であるため、高価な動産を保有している場合が多いです。こうした動産も婚姻中に共有財産で購入したのであれば、財産分与の対象となります。
しかし、財産分与として分け合うためには、動産の時価額を適切に鑑定してもらう必要があります。そうなると、時価額の評価や対象となる動産の区別がより煩雑になるため、離婚問題に精通した弁護士に相談されることをおすすめします。弁護士であれば、適切な判断や手続きが可能です。
有価証券
有価証券とは、「財産的価値を有する証券」で、株式や国債などを指します。有価証券を婚姻中に共有財産で取得したのであれば、当然財産分与の対象となります。
配偶者が会社経営者の場合は、自社の株式を保有していることから、財産分与の対象に自社株が含まれるケースが多いです。自社株の分与は、会社の経営に大きな影響が及ぶおそれがあるため、特に注意しなければなりません。株式の保有割合によっては、経営に関与していなかった配偶者が離婚後関与することになるからです。
たとえば、財産分与によって配偶者の持ち株比率が3分の1以上になると、配偶者は株主総会の特別決議を単独で阻止できるようになります。配偶者がすでに相当な割合の自社株を保有しているケースでは、こうしたリスクが高まります。そのため、会社の経営を守れるように、自社株は経営者自身が取得する代わりに金銭やほかの財産を配偶者に渡すなどして調整する必要があります。
株の財産分与について、詳しくは以下のページをご覧ください。
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退職金
離婚時に退職金を受け取っていなくても、将来的に支給される可能性が高いと認められる場合、財産分与の対象となり得ます。
会社経営者にも、「退職慰労金」というものが支給されることがあります。また、解約返戻金を活用して退職金の準備金にあてるため、「長期平準定期保険」や「逓増定期保険」などの生命保険に加入しているケースもあります。
こうした退職金に相当するお金も、財産分与の対象となる可能性があるため、離婚する際には念頭に置いておきましょう。ただし、必ずしも全額が財産分与の対象になるとは限りませんし、場合によってはそもそも対象には含まれないこともあります。
離婚時における退職金の財産分与について、詳しくは以下のページをご覧ください。
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経営者の離婚慰謝料は高額になる?
会社経営者が離婚の慰謝料を請求されても、必ずしも高額になるわけではありません。社会的地位や相手との収入額の差が考慮されることもありますが、大きく影響することはないでしょう。なぜなら、慰謝料は、精神的苦痛に対する賠償金であり、経済力だけで金額を決めては不合理だといえるからです。
裁判所が慰謝料の金額を決める際には、以下の事情が考慮されます。
- 婚姻期間の長さ
- 不法行為(浮気・DV等)の内容や程度
- 子供の有無 など
これらの事情を踏まえ、どれだけ大きな精神的苦痛を負ったのかが判断されます。
離婚慰謝料の基礎知識について、詳しくは以下のページをご覧ください。
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経営者の離婚は養育費や婚姻費用も高額になる?
会社経営者は高収入であるため、離婚に伴い支払う養育費や婚姻費用が高額になりやすいです。
養育費は、離婚して子供と離れて暮らす親が子供の面倒を見る親に対して支払う子育てに必要な費用です。一方で婚姻費用は、夫婦やその子供が生活を維持するために必要な費用を指します。
養育費や婚姻費用の一般的な相場は、裁判所の実務でも用いられている「養育費算定表」や「婚姻費用算定表」から確認できます。どちらも子供の人数や年齢、お互いの年収などから相場を確認できる早見表となっており、夫婦の事情を当てはめて養育費や婚姻費用を算定していきます。
しかし、算定表には年収2000万円までしか記載されていないため、これを超える場合は一般の算定表では対応できません。年収が高くなればなるほど支払う養育費や婚姻費用が無制限に高くなるわけではないですが、個別で対応していく必要があります。
養育費算定表について、詳しくは以下のページをご覧ください。
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会社経営者だと親権争いで有利になる?
親権は基本的に母親に有利になりやすいのが実情であり、子供が幼いと一層その傾向は強くなります。
会社経営者なら、経済力の高さから親権獲得に有利なように感じるかもしれません。しかし、裁判所は、それぞれのご家庭の事情を総合的に考慮したうえで、どちらが親権者にふさわしいかを判断します。経済力も考慮される一要素にはなりますが、収入が少なくても養育費などでカバーできるため、特別重視されるとはいえません。
重要なのは、これまで子供の面倒を主に見てきたのはどちらだったのか、現在子供の面倒を見ているのは誰か、離婚後の子育ての環境などです。会社を経営しており、仕事が忙しくて育児を相手に任せきりにしていたような場合、親権の獲得は難しくなることが予想されます。
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配偶者が役員や従業員の場合の雇用関係
配偶者が自社の役員になっていた場合や従業員であった場合、離婚したからという理由だけで、解任したり解雇したりすることはできません。委任契約や雇用関係は夫婦の問題とは別に考えるべきものであり、解任・解雇するにしても、きちんと法律に従って行うことが必要です。
役員なら、任期の満了を待つ、株主総会で解任する、辞任届を出してもらうなどの方法をとる必要があります。一方、従業員の場合は、十分に話し合い、自ら退職してもらえるよう交渉していくことになるでしょう。
会社経営者の離婚について弁護士に相談するメリット
会社経営者の離婚を弁護士に相談すると、以下のようなメリットを得られます。
- 離婚条件の交渉を有利に進められる
- 財産の評価を適切に行ってもらえる
- 相手との交渉をすべて一任できる
- 財産分与の対象となる財産を正確に把握してもらえる など
交渉や手続きを弁護士に一任できれば、精神的負担が大きく軽減されるだけでなく、時間の節約にもなります。正確な評価が難しい財産も、弁護士がいれば調査のサポートを受けられ、適切な評価が行えます。また、離婚条件が争われ、離婚調停や離婚裁判に発展した場合の対応も弁護士に任せられるため、安心です。
子供がいる場合は、養育費や婚姻費用の額を取り決めなければなりませんが、参考とされる算定表の上限年収は給与所得者で2000万円、自営業者で1567万円となっています。そのため、これ以上の収入がある場合には、養育費や婚姻費用の額を決める際に争いが起きやすいだけでなく、年収を確定させる必要があります。このような場合でも、弁護士がいれば適切なサポートを受けられます。
弁護士費用や弁護士の選び方については、以下のページをご覧ください。
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経営者の離婚問題に関する裁判例
会社経営者の離婚で、財産分与について争われた裁判例をご紹介します。
【平成13年(タ)304号・668号 東京地方裁判所 平成15年9月26日判決】
事案の概要
財産分与の基本的な割合(2分の1)を修正した、「夫95:妻5」の割合で財産分与することが認められた裁判例です。
夫は上場会社の代表取締役で、妻は財産分与として財産の半額(110億円)を求めましたが、夫は拒否していました。
裁判所の判断
裁判所は、財産分与の対象となる共有財産を約220億円だとしたうえで、妻が間接的に財産の維持・形成に寄与しているものと判断しました。ただ、共有財産の原資のほとんどが夫個人の特有財産であったこと、その運用・管理に携わったのも夫であることなどから、妻が財産の維持・形成に寄与した割合は必ずしも高いとは言い難いとしました。
そして、婚姻関係が破綻した主な責任は夫にあること、今後の扶養的な要素なども考慮し、財産分与として、共有財産の5%にあたる10億円を夫は妻に支払うべきだと判決を下しました。
会社経営者の離婚に関するQ&A
- Q:
相手に財産を渡したくない場合、財産を意図的に会社名義に変更したら違法ですか?
- A:
本来なら財産分与の対象にすべきだった相手名義の財産を会社名義に変更する行為は、詐欺や窃盗の罪になる可能性があり、相手から損害賠償請求を受けるおそれがあります。
なお、刑法には「親族相盗例」という特例があり、夫婦間や親族間で行われた窃盗や詐欺などに関しては、刑罰が免除されます。よって、刑罰に処されることはありません。ただ、刑法上の罰はないとしても、民法上の責任を問われ、損害賠償金を支払わなければならなくなる可能性は十分に考えられます。
- Q:
自社株の財産分与を要求されていますが、拒否したい場合はどうすればいいですか?
- A:
自社株の財産分与を拒否したい場合は、相手に渡すべき自社株の価値に相当する金銭または他の財産を渡すのが有効的です。
自社株の財産分与は、一般的に以下のような方法で分け合えます。- ① 現物分割
自社株をそのまま夫婦で分け合う方法 - ② 換価分割
売却した自社株の売却代金を夫婦で分け合う方法 - ③ 代償分割
一方が自社株を取得する代わりに、他方には相応の金銭や他の財産を譲る方法
自社株を売却する予定がない場合は、③の代償分割を選ぶのが現実的です。代償分割であれば、会社に影響が及ぶ可能性は低く、公平に分割できます。しかし、相手に支払う代償金の額が大きければ、それだけ支払う側の負担となってしまう点に注意する必要があります。
- ① 現物分割
経営者の離婚問題については弁護士法人ALGにご相談ください
会社経営者が離婚する際は、通常の離婚とは異なる注意点があります。
特に財産分与は複雑になりやすく、争われることも多いです。
弁護士に相談すれば、「どこまでが財産分与の対象になるか」、「どのように評価額を出したらいいのか」等について、法的知識に基づいた適切なアドバイスをもらえます。もちろん財産分与だけではなく、そのほかの離婚条件に関してもアドバイスを受けられますし、依頼して相手との交渉を代わりに行ってもらうことなども可能です。
弁護士は、あなたの立場に寄り添い、法的なサポートを提供する心強い存在です。会社経営者の方で離婚問題にお悩みのときは、まずは弁護士にご相談ください。
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います

- 監修:福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)











