子の引渡しの強制執行をするための条件や手続きについて
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
別居中や離婚後に、一方の親が勝手に子供を連れ去るケースは少なくありません。その場合、裁判所から相手に対して「子供を引き渡すように」と命じてもらうのが一般的ですが、相手が応じない可能性もあります。
相手が任意で引き渡さない場合、最終的には “強制執行”という手続きを検討する必要があります。
本記事では、
・子の引渡しの強制執行とは
・子の引渡しの強制執行をするための条件とは
・子の引渡しの強制執行の手続き
など、「子の引渡しの強制執行」についてわかりやすく解説します。
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子の引渡しの強制執行とは
子の引渡しの強制執行とは、調停や審判で「子供を引き渡す」と定められたにもかかわらず、相手が応じないときに、裁判所を通じて引渡しを実現するための手続きです。財産の差押えとは異なり、引渡しの対象が“子供”なので、心身への負担に十分配慮しながら手続きが進められます。
強制執行には、「間接強制」と「直接強制」の2種類があります。
【間接強制と直接強制の違い】
● 間接強制
相手が子供を引き渡すまで、1日あたりの「間接強制金」を課して経済的な負担を与え、任意の引渡しを促す方法です。強制的に子供を取り戻すことはできませんが、心理的な説得効果が期待できます。
● 直接強制
執行官が子供の居場所へ出向き、その場で引渡しを実現する方法です。間接強制の効果が見られない場合や、子供の安全を守るため迅速な対応が必要なときに利用されます。
強制執行の中でも、最も実効性の高い“最終的な手段”とされています。
強制執行の流れ
【間接強制】
- ① 間接強制の申立て
- ② 相手の審尋(相手の意見を聞く手続き)
- ③ 間接強制の決定(間接強制金が課せられる)
- ④ 期限内に任意で子の引渡しが実現した場合→終了
期限内に任意で子の引渡しが実現しなかった場合→直接強制の申立て
【直接強制】
- ① 直接強制の申立て(執行官に子の引渡しを実施させる決定申立て)
状況によっては、「第三者の占有する場所での執行許可の申立て」もしくは「債権者代理人の出頭の下での執行を認める決定申立て」も付随して行う。 - ② 相手の審尋(相手の意見を聞く手続き)
- ③ 直接強制の決定
- ④ 引渡実施の申立て
- ⑤ 執行官と事前打合せ
- ⑥ 執行官による引渡しの実施
法改正による変更点
2020年4月の民事執行法改正により、子の引渡しに関する強制執行の手続きが大きく見直されました。
改正前は、子の引渡しに特化した規定がなく、“物の引渡しルール”を準用していたため、子供の心身への配慮が不十分だと指摘されていました。
今回の改正では、次の点が明確化されています。
【主な変更点】
- 直接強制の申立て要件が明確化
「どのような場合に直接強制できるのか」が明確になり、手続きの見通しが立てやすくなりました。 - 債務者(引渡す側)の立合い不要
相手が不在でも引渡しを進められるようになり、実効性が大きく向上しました。 - 債権者(引渡しを求める側)または代理人の立合いが必要
子供の受け渡しを確実に行うため、申立人などの立ち合いが必要になりました。 - 債務者の住所以外でも執行できることを明確化
子供が実際に生活している場所(祖父母宅など)でも、直接強制が可能なことが明確化されました。
子の引渡しの強制執行をするための条件
子の引渡しの強制執行をするには、有効な「債務名義」を得ている必要があります。
〈主な債務名義〉
- 子の引渡しに合意した調停調書
- 子の引渡しを命ずる審判
- 審判前の保全処分による仮の引渡しを命ずる決定
子の引渡し調停・審判
子の引渡し調停・審判は、別居中や離婚後に一方の親が子供を連れ去って返さないとき、子供を取り戻すための裁判所の手続きです。
調停は、父母双方と裁判官・調停委員が同席し、話し合いによって解決を目指す制度です。
話し合いがまとまらない場合は「審判手続き」へ移り、家庭裁判所が子供の引渡しを命じるかの判断(審判)を下します。
離婚後に、親権者でない親が子供の引渡しを求めるときは、基本的に「親権者変更の申立て」も一緒に行う必要があります。
一方、離婚前の別居中に子供の引渡しを求めるケースでは、父母が共同親権の状態のため、「子の監護者指定の申立て」も併せて行うのが一般的です。
子の引渡し審判については、下記のページで詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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審判前の保全処分(仮の引渡し)
審判前の保全処分(仮の引渡し)は、子の引渡し調停や審判の結果を待っていては、子供の身に危険が及ぶような“緊急性が高いケース”で使われる仮の措置です。
子の引渡し調停と同時に申し立てることもできますが、話し合いで解決できそうであれば、あえて申立てを控えることもあります。
審判前の保全処分は、あくまで「急を要するケース」における手続きとして位置づけられています。
審判前の保全処分では、強制執行できる期限があり、「保全処分の審判書を受け取ってから2週間以内」に手続きを行わなければなりません。2週間を過ぎると強制執行ができなくなるため、実際に執行する際は、書面の受領後すぐに準備を始める必要があります。
子の引渡しの強制執行の手続き
調停または審判によって子の引渡しが決定したにもかかわらず、相手が任意に子供を引き渡さない場合は、強制執行の手続きを検討すべきといえます。
手続きの種類や申立人、申立先、申立てに必要な費用、必要な書類などを紹介していきます。
間接強制の手続き
【概要】
子供を引き渡さない債務者に間接強制金を課すことで、心理的圧迫を加えて自発的な引渡しを促す方法
【申立人】
調停調書、審判書、判決書などに記載されている債権者(権利者)
【申立先】
調停、審判、判決などをした家庭裁判所
【申立てに必要な費用】
- 収入印紙:2000円
- 連絡用の郵便切手:申立先の家庭裁判所によって異なる
【申立てに必要な書類】
- 申立書
- 執行力のある債務名義(調停調書、審判書、判決書)の正本、債務名義の送達証明書、確定証明書(事案によっては不要)
- 債務者の資産、収支状況を裏付ける資料
直接強制の手続き
【概要】
家庭裁判所の執行官が子供のいる場所に赴き、子供を直接連れ戻す方法
【申立人】
調停調書、審判書、判決書などに記載されている債権者
【申立先】
調停、審判、判決などをした家庭裁判所
【申立てに必要な費用】
- 収入印紙:2000円
- 連絡用の郵便切手:申立先の家庭裁判所によって異なる
【申立てに必要な書類】
- 申立書
- 執行力のある債務名義(調停調書、審判書、判決書)の正本、債務名義の送達証明書、確定証明書(事案によっては不要)
- 間接強制決定の確定日から2週間を経過したとき又は同決定において定められた債務を履行すべき一定の期間がこれより後である場合はその期間を経過したことを示す資料
- 間接強制による強制執行を実行しても債務者が子の監護を解く見込みがあるとは認められないことを示す資料
- 子の急迫の危険を防止するため直ちに強制執行をする必要があることを示す資料
※aからcはいずれかで足りる。
直接強制をする際に付随して利用できる手続き
第三者の占有する場所での執行の許可の申立て
【概要】
子供が債務者の占有する場所以外に住居している場合に、家庭裁判所から「占有者の同意に代わる許可」を受けることで、子供が実際にいる場所で引渡しを行える手続き
※直接強制をする際は、原則として「債務者が占有する場所(住居など)」で実施することとされています。
【申立人】
直接強制の申立てをする(した)債権者
【申立先】
直接強制の申立てをする(した)家庭裁判所
【申立てに必要な費用】
- 収入印紙:500円
- 連絡用の郵便切手:申立先の家庭裁判所によって異なる
【申立てに必要な書類】
- 申立書
- 申立ての理由を裏付ける資料
債権者代理人の出頭の下での執行を認める決定申立て
【概要】
やむを得ない事情により、債権者自身が執行の場所に出頭できない場合、家庭裁判所の決定によって「債権者の代理人」の出頭でも子の引渡しを行える手続き
※直接強制をする際は、原則として債権者自身も執行の場所に出頭する必要があります。
【申立人】
直接強制の申立てをする(した)債権者
【申立先】
直接強制の申立てをする(した)家庭裁判所
【申立てに必要な費用】
- 収入印紙:500円
- 連絡用の郵便切手:申立先の家庭裁判所によって異なる
【申立てに必要な書類】
- 申立書
- 申立ての理由を裏付ける資料
子の引渡しの強制執行手続きについては、裁判所のサイトでも詳しく紹介されています。申立書の書式もダウンロードできますので、併せてご覧ください。
強制執行で必ず子供を引き渡してもらえるのか?
強制執行を行っても、必ず子供を引き渡してもらえるとは限りません。
直接強制で執行官が子供の居場所へ向かっても、子供が不在の場合や、強く拒否して泣き叫ぶなど安全に引渡しできないと判断された場合は、引渡しが実現しないこともあります。
こうした状況では、最終手段として「人身保護請求」の検討も視野に入れましょう。
人身保護請求は、子供が相手方のもとに留め置かれることで重大な危険があると判断される場合に、裁判所を通じて子供の自由を確保するための手続きです。
裁判所が必要性を認めると、相手に対し、子供を連れて審問期日に出頭するよう命じる「人身保護命令」が出されます。命令に従わないと、裁判所は相手を勾引や勾留の対象とし、その後、子供を請求者へ引き渡す判決が下されます。
ただし、人身保護請求は要件が厳しく、直接強制よりも認められるハードルが高いことに注意が必要です。
子の引渡しには強制執行という手段もあるので、経験豊富な弁護士にご相談ください
子供を無断で連れ去られてしまった場合、放置すると親権争いで不利になるおそれがあります。また、離れて暮らす期間が長くなり、親子関係が悪化するリスクもあります。
こうした状況では、早めに調停・審判や保全処分などの法的手続きを進めることが重要です。
子の引渡しでお悩みの方は、弁護士法人ALGにご相談ください。子の引渡し問題は、感情面・手続き面ともに負担が大きく、適切な対応を取れるかどうかで結果が大きく変わります。専門知識を持つ弁護士に相談すれば、状況に合った適切な進め方を検討しやすくなります。
迅速な対応が求められる場面も多いため、少しでも不安を感じたら、できるだけ早い段階でご相談することをおすすめします。
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います

- 監修:福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)











