有責配偶者からの離婚請求は認められる?判例・要件・注意点など
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
離婚原因を作った有責配偶者からの離婚請求は、基本的に認められません。
しかし、例外的に有責配偶者からの離婚請求を認める過去の裁判例も存在します。では、どのような要件を満たしていれば、有責配偶者からの離婚請求が認められるのでしょうか?
本記事では、離婚したい有責配偶者の方に向けて、有責配偶者からの離婚請求が認められる3つの要件や判例・成功例などを詳しく解説していきます。有責配偶者であることが離婚条件にどのような影響を及ぼすのかについても解説していきますので、ぜひご参考になさってください。
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有責配偶者からの離婚請求は認められる?
有責配偶者からの離婚請求は、原則として相手の同意がなければ認められません。
有責配偶者とは、夫婦関係を破綻させた原因を作り、配偶者を裏切った側を指します。有責な立場にありながら自分の都合だけで離婚を求めるのは、法律上の信義則に反すると考えられているため、裁判では基本的に離婚請求が認められません。ただし、協議や離婚調停で双方が合意すれば、離婚は成立します。
さらに、相手の同意がなくても、長期間の別居や子供の状況、離婚後の生活への影響などを総合的に判断し、例外的に離婚が認められた裁判例もあります。
有責配偶者だからといって、必ず離婚できないわけではなく、条件次第で可能になる場合があるのです。
有責配偶者からの離婚請求が認められる3つの要件
有責配偶者からの離婚請求は認めないというのが、裁判所の基本的な考えです。
しかし、次の要件にすべてあてはまれば、例外的に有責配偶者からの離婚請求でも認められる場合があります。
- 夫婦の別居期間が長期間に及んでいる
- 夫婦の間に未成熟の子供がいない
- 他方配偶者は離婚によって極めて過酷な状況とはならない
①夫婦の別居期間が長期間に及んでいる
有責配偶者が離婚の原因をつくる前から夫婦が別居し、その期間が長期に及んでいる場合は、夫婦関係は既に破綻していたものとみなされて離婚が認められやすくなります。
長期間の別居に明確な基準はありませんが、夫婦関係の破綻を証明するには一般的に3~5年程度の別居期間が必要です。ただし、有責配偶者から離婚を請求する場合には、7~10年程度の別居期間が必要とされます。
家庭内別居や単身赴任については、夫婦関係の破綻を証明する別居とはいえないため、注意しましょう。
別居についてさらに詳しく知りたい方は、以下のページをご覧ください。
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②夫婦の間に未成熟の子供がいない
夫婦に未成熟の子供がいない場合、有責配偶者からの離婚請求は認められやすくなります。
ここでいう「未成熟子」とは、経済的な自立の有無で判断され、年齢は関係ありません。成人していても、学生で収入がない場合や、障害などで生活費を自分で賄えない場合は未成熟子に該当するでしょう。
未成熟子がいると、離婚によって子供の生活が不安定になるおそれがあるため、裁判所は離婚を認めにくくなります。反対に、子供がいない、または自立している場合は、離婚後の生活への影響が小さいと考えられ、離婚請求が認められる可能性が高まります。
ただし、監護体制が十分に整っているなど特別な事情がある場合には、未成熟子がいても離婚が認められるケースもあります。
③配偶者が離婚によって極めて過酷な状況にならない
有責配偶者からの離婚請求によって、責任のない配偶者が離婚後に精神的・社会的・経済的に過酷な状況にならないことも要件となります。
例えば、専業主婦として家庭を守り続け有責配偶者の収入で生活をしてきた方や、障害のある子供を介護し続ける予定の方などは、離婚によって精神的にも社会的にも経済的にも過酷な状況になる可能性が高くなります。特に重視されているのが経済面ですので、十分な慰謝料や財産分与、適切な婚姻費用の支払いなどで経済的援助を行い、誠実な対応をしているかどうかなどが考慮されます。
有責配偶者からの離婚請求に関する判例・成功例
有責配偶者からの離婚請求が認められた判例
【平成13年(ネ)5675号 東京高等裁判所 平成14年6月26日判決】
家族構成:夫(51歳)、妻(50歳)、長男(社会人)、二男(大学卒業済)
同居期間:約22年
別居期間:約6年
概要
別居期間が約6年で、不貞行為をして有責配偶者とされる夫からの離婚請求を棄却した原判決を取り消して、控訴審で認めた事案です。
裁判所の判断
裁判所は、別居期間が6年以上経過しており、
①夫婦はもともと会話の少ない意思疎通が不十分な夫婦であり、妻の不倫疑惑から夫婦間の溝が大きく広がった
②2人の子供はいずれも成人して大学を卒業しており、未成熟子がいない
③妻は教師として相当の収入を得ていて、夫は財産分与で自宅を妻に渡して住宅ローンを支払い続ける意向を表明している
ことなどの事情を踏まえ、離婚請求を認めました。
弁護士の解説
別居期間が約6年と比較的短い事案ですが、➁未成熟子がいないこと③相手が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状況におかれないことの要件を満たしていることが重視されて、有責配偶者でも例外的に離婚ができると証明した判例といえるでしょう。
有責配偶者からの離婚調停が成立し、慰謝料も減額できた事例
有責配偶者からの離婚調停が成立して、慰謝料も減額できた弁護士法人ALGの解決事例をご紹介します。
【相談された経緯】
依頼者様の不貞行為が発覚して別居を開始しました。その後、相手から婚姻費用分担請求調停を申し立てられ、依頼者様からは離婚調停を申し立てしました。
当初は、ご自身で調停の対応を行ってきましたが、相手には弁護士がついており、不貞行為に関する証拠が提出されてしまったことから、ご自身での対応が難しくなり、当事務所にご相談に来られました。
【相談を受けた弁護士の感想】
相手から提出された証拠を確認すると、不貞行為を認定するにあたって十分な証拠でした。裁判になった場合は、不貞行為が認定されて多額の慰謝料を支払うことになるであろうと推測できました。
【依頼後の弁護士の対応】
調停の段階から一定程度の慰謝料を支払い、早期に離婚できたほうが依頼者様の利益になると考え、あえて財産分与を請求しない代わりに、早期の調停成立と慰謝料の減額に応じて欲しいと主張しました。
【結果】
弁護士介入から2回目の調停で離婚が成立して、慰謝料も500万円から250万円まで減額することに成功しました。
有責配偶者であることは離婚条件にどう影響するのか?
有責配偶者である点は、離婚条件に次のような影響を及ぼす・及ぼさないと考えられています。
- ① 慰謝料を請求される可能性が高い
- ② 財産分与が減額される可能性がある
- ③ 婚姻費用が制限・認められない可能性がある
- ④ 有責性は基本的に親権には影響しない
- ⑤ 有責性は基本的に養育費には影響しない
- ⑥ 面会交流の制限・認められない可能性がある
有責性を理由に影響を受ける離婚条件もあれば、受けない離婚条件もあります。
①慰謝料を請求される可能性が高い
離婚の原因を作り、婚姻関係を破綻させた有責配偶者は、もう一方の配偶者から慰謝料を請求されるケースがあります。例えば、相手がご自身の不貞行為やDV(暴力)、モラハラなどで精神的苦痛を被った場合です。
離婚の慰謝料の一般的な相場は100万円から300万円程度とされています。慰謝料は婚姻期間、子供の有無、有責配偶者の資産、有責配偶者がした行為の内容など様々な要素を考慮して算出します。
しかし、慰謝料は、離婚原因となった行為の存在を裏付ける証拠がなければ認められません。また慰謝料請求には時効があり、被害を受けてから3年または離婚成立時から3年、有責行為があったときから20年経過した場合は慰謝料請求権そのものが消滅します。証拠がない場合や、時効の経過によっては、慰謝料を支払わないで済む場合もあり得ます。
「離婚慰謝料の基礎知識」について、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
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②財産分与が減額される可能性がある
有責配偶者の場合、財産分与の金額が減額されるケースがあります。
財産分与とは、「婚姻中に夫婦が力を合わせて築きあげた財産を貢献度に応じて清算する(分け合う)」ことをいいます。財産分与の割合を決めるうえで、離婚原因や有責性の有無などの事情は考慮すべきではないと考えられているため、有責性は貢献度に影響を及ぼしません。
有責配偶者であっても、財産分与の割合は2分の1とするのが基本です。
しかし、財産分与に慰謝料の要素を含める場合は、通常もらえるはずの財産分与額から慰謝料分が差し引かれるため、受け取れる財産分与額が少なくなります。
「財産分与」について、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
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③婚姻費用が制限・認められない可能性がある
有責配偶者が他方配偶者に婚姻費用を請求する場合は、請求が制限・認められない可能性があります。
婚姻費用とは、「夫婦やその子供が生活していくために必要な費用(衣食住費や医療費等)」をいい、基本的に収入の低い方が多い方に対して請求できます。離婚に向けて別居する場合は、別居に係る費用を婚姻費用として収入の多い配偶者に請求できますが、請求する側が有責配偶者だと認められない可能性が高いです。
自ら夫婦関係を破綻させて別居する原因をつくっておきながら、自分の生活費を非のない相手に請求するのは不合理だと考えられるからです。有責配偶者と子供が一緒に暮らしている場合には、有責配偶者の生活費のみが制限されるでしょう。
「婚姻費用」について、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
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④有責性は基本的に親権には影響しない
有責配偶者であっても親権者になれる可能性はあります。
親権を決めるにあたって、離婚原因がどちらにあるかは基本的に影響しません。
親権者を定めるときは、有責性を重視するべきではなく、子供の福祉の観点から「父親と母親のどちらと暮らすのが子供にとって幸せか」を重視します。
離婚による環境の変化は子供に多大な負担となるので、現在子供を養育・監護している者はどちらなのか、今後どのように子供を育てるつもりなのかなどを最優先に考慮します。
しかし、不倫相手との時間を優先して子供の育児・世話をしなかった場合や、子供にもDVをしていた場合などは、離婚の有責性が親権の判断に影響する可能性もあります。
「親権」について、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
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⑤有責性は基本的に養育費には影響しない
養育費は子供の生活費であるため、有責性が養育費に影響することは基本的にありません。
離婚して子供と一緒に暮らす親がたとえ有責配偶者だとしても、他方配偶者は、離婚原因や有責性に関係なく養育費を支払う義務を負います。養育費の支払いについては、夫婦の問題とは切り離して考えなければなりません。
例えば、有責配偶者の有責が不倫で、離婚後に不倫相手と再婚した場合でも、養育費を支払う必要があります。有責性を理由に養育費が増減されることもありません。
「養育費」について、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
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⑥面会交流の制限・認められない可能性がある
有責配偶者との面会交流は、制限・認められない可能性があります。
面会交流とは、「子供と離れて暮らしている親が子供と直接面会したり、手紙のやり取りをしたりして交流を持つこと」をいいます。離れて暮らす親との交流は、子供が父母双方から愛を感じられ、健全な成長につながる大切な機会です。
有責配偶者であっても、子供が望めば基本的に面会交流できます。しかし、有責配偶者の有責がDVやモラハラなどの場合は、子供に危害が加わる可能性が高いと判断され、制限を受けやすいです。
「面会交流」について、下記ページで詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
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有責配偶者からの離婚請求についてのQ&A
- Q:
夫婦双方に有責性がある場合の離婚請求はどうなりますか?
- A:
夫婦の双方に責任がある場合、どちらの責任が重いかによって離婚請求が認められるかどうかが決まります。
そもそも責任の程度が同じなら、有責配偶者からの離婚請求という話にはなりません。
有責配偶者からの離婚請求は原則として認められないため、離婚は成立しないでしょう。例えば、夫婦が双方とも不倫していた場合、最初に不倫した側の責任が極めて重いと判断されれば、最初に不倫した側からの離婚請求は認められにくくなります。
- Q:
有責性に時効はありますか?いつまで有責配偶者として扱われますか?
- A:
過去の不貞行為や暴力などの責任を主張することに、法律上の「時効」はありません。
ただし、例えば不貞行為があった後、長年にわたり夫婦関係が平穏に続いていた場合、裁判所が「その問題はすでに解決済み」と判断する可能性があります。これは、過去の行為だから主張できないという意味ではなく、有責行為後の状況によっては、有責行為があった事実だけでは離婚理由として不十分とみなされる場合があるという意味です。
有責配偶者だけど離婚したいとお考えなら弁護士にご相談ください
離婚に至る原因を作った有責配偶者からの離婚請求は基本的に認められませんが、例外的に一定の条件を満たせば、離婚が認められる場合もあります。
ご自身が有責配偶者だから離婚できないと諦めている方や、お悩みのある方は、まず弁護士にご相談ください。
状況に応じて、どのように対処すべきか適切にアドバイスいたします。
弁護士が代わりに相手と直接交渉することも可能ですし、調停や裁判の手続きも弁護士にすべてお任せください。
有責配偶者からの離婚請求は、一筋縄にはいけません。
ぜひ弁護士の力を借りてみてはいかがでしょうか。まずはお気軽にお問合せください。
まずは専任の受付職員が丁寧にお話を伺います

- 監修:福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治 弁護士法人ALG&Associates
- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)











