養育費を払わない元配偶者に対してできること|回収方法や時効について
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
離婚後、養育費の支払いがストップしてしまうという事態は、珍しいことではありません。子育てしていくには何かとお金がかかりますから、養育費が支払われなくなったら困ってしまいますよね。約束を破った元配偶者に、憤りを感じる方もいらっしゃるかと思います。
それでは、養育費を払わない元配偶者に対して、未払い養育費を支払ってもらうためにはどうしたらいいのでしょうか?本ページで詳しくみていきましょう。
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養育費を払わない元配偶者に対してできること
元配偶者から養育費の支払いを受けている方は、そう多くないのが実情です。厚生労働省の調査(平成28年度)によると、現在も養育費を受け取っていると答えた方の割合は、母子家庭で約24%、父子家庭で約3%となっています。
取り決めをしたにもかかわらず、養育費を払わない元配偶者に対しては、「強制執行」などの手続きを行って未払い分の回収を図ることになります。
なお、養育費を払わないことへの刑事罰は、現在のところありません。しかし、2020年4月1日の民事執行法の改正により、強制執行をするために「財産開示手続」を行ったとき、相手が自分の財産について嘘をついたり、正当な理由なく欠席したりした場合には、刑事罰が科されることとなりました。
強制執行とは
強制執行とは、約束を守らない相手に対して、強制的に約束内容を実現させる方法のことです。
強制執行でできることとしては、相手の給与や預貯金、不動産といった財産を差し押さえることなどがあります。未払い分の養育費を回収するための、最も強力な手段といえるでしょう。
ただし、強制執行を行うためには、「債務名義」が必要です。債務名義というのは、例えば次のようなものをいいます。
- 「公正証書(※強制執行認諾文言付のもの)」
- 「調停調書」
- 「審判書」
- 「判決」
口頭のみで養育費について取り決めたり、離婚協議書しか作っていなかったりするケースでは、すぐさま強制執行の手続きはとれませんので注意しましょう。
養育費の強制執行について、詳しい内容は下記のページをご覧ください。
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民事執行法の改正で強制執行が容易に
強制執行(財産の差押え)の申立てをするときには、相手のどの財産を差し押さえたいのか?を明確にする必要があります。2003年に「財産開示手続」といって、相手方を裁判所に呼んで財産状況を聞く制度が作られましたが、無視した場合などの罰則が弱く、実効性に欠けていました。
そこで、2020年4月1日に民事執行法が改正され、以前よりも財産を調査する環境が整えられました。その結果、強制執行がしやすくなっています。今回の改正の主なポイントは、次のとおりです。
・「財産開示手続」の見直し
→嘘の情報を述べたり、正当な理由なく欠席したりした場合の罰則が強化された。
・「第三者からの情報取得手続」の新設
→役所や金融機関などの第三者に対し、裁判所を通じて情報の提供を求めることができるようになった。
差し押さえることができる財産
差し押さえることができる財産としては、次のようなものがあります。
- 給与
- 預貯金
- 現金(※66万円までは差し押さえできない)
- 不動産(家、土地など)
このうちの「給与」については、将来分の養育費も差し押さえることが可能とされています。つまり、一度差し押さえれば、給与から自動的に天引きしてもらい、養育費として受け取ることもできるのです。ただし、差し押さえられるのは、基本的に給与の手取り額の2分の1までです。
なお、相手に財産がまったくない場合には、差押えはできません。また、預貯金口座を持っているときは、その金融機関名と支店名さえわかれば差し押さえることが可能ですが、ふたを開けたら残高がわずかしかなかったというケースもあります。その場合は、残高だけ差し押さえるか、差押えを取り下げることになるでしょう。
強制執行のメリット・デメリット
養育費を払わない元配偶者に対し、強制執行(財産の差押え)を行うメリットとデメリットとして考えられることを、下表にまとめてみました。
メリット | デメリット |
---|---|
|
|
相手に十分な財産があるのなら、強制執行はとても有効な方法といえます。しかし、相手に財産がなければ、差し押さえはできません。財産がなくてお金がとれない場合には、定期的に財産調査をして、タイミングをみて再び強制執行を行うことになるでしょう。
養育費の取り決め方法によっては強制執行ができない
養育費の取り決め方法によっては、未払いが発生しても、すぐには強制執行ができないことがあります。
【強制執行ができる場合】
・夫婦間の話し合いで取り決めをして、その内容を「強制執行認諾文言付の公正証書」に残していた場合
・裁判所の手続き(調停・審判・裁判など)で取り決めをした場合
【強制執行ができない場合】
・夫婦間の話し合いで取り決めをして、口約束で終わらせている場合
・夫婦間の話し合いで取り決めをして、その内容を「離婚協議書」にまとめただけで、「強制執行認諾文言付の公正証書」にしていない場合
まとめると、強制執行ができるのは債務名義がある場合、できないのは債務名義がない場合です。すぐさま強制執行ができない場合には、通常、「養育費請求調停」を行って養育費の取り決めをし直す必要があります。詳しくは後ほど解説します。
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メールで相談する養育費を払わない元配偶者への請求の流れ
養育費を払わない元配偶者へ、未払い養育費の支払いを求めるときには、主に次のような流れで進めていきます。
- ①相手に支払いを催促する
- ②養育費請求調停を申し立てる(※債務名義がない場合)
- ③履行勧告を申し立てる
- ④履行命令を申し立てる
- ⑤強制執行を申し立てる
もちろん、債務名義があれば、ただちに「⑤強制執行を申し立てる」ということも可能です。置かれている状況をみて、どの対処法をとるのが最適なのか考えましょう。 上記に挙げた各手順について、1つずつ解説していきます。
相手に支払いを催促する
まずは相手に養育費の支払いを催促します。支払日を勘違いして支払われていなかった、といったケースもあるので、ひとまず冷静になって支払うように催促してみましょう。
催促しても相手が応じないときは、「内容証明郵便」を出して請求するという手があります。内容証明郵便とは、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の郵便物を送ったのかを、郵便局が証明してくれるサービスがついた郵便です。普段の生活で受け取る機会はそう多くないでしょうから、相手にプレッシャーを与えて、請求に応じてくれやすくなる可能性があります。また、確かに請求をした、という事実の証拠としても役立ちます。
養育費請求調停を申し立てる
催促等しても支払われない場合には、「養育費請求調停」を申し立てます。この手続きは、債務名義を持っていない方、具体的には、夫婦間の話し合いで養育費を決め、「強制執行認諾文言付の公正証書」を作成していないケースで必要になります。
養育費請求調停とは、家庭裁判所の調停委員を間に挟み、養育費の話し合いをする手続きです。お互いが合意できれば調停成立、合意できないときは調停不成立となります。不成立となった後は、自動的に「審判」の手続きが開始され、裁判官によって判断がなされます。
このようにして、養育費の取り決め内容が書かれた債務名義(「調停調書」または「審判書」)が手に入ったら、次なるステップに進めます。
履行勧告を申し立てる
履行勧告とは、家庭裁判所の手続きで決まった養育費の支払い等を守らない者に対し、家庭裁判所が「支払うように」と勧告する手続きです。調停や審判など、家庭裁判所の手続きで養育費を決めた場合に、「履行勧告」の申立てが可能になります。
費用はかからず簡単な手続きといえますが、履行勧告でできるのは、あくまでも任意の支払いを促すことのみです。強制力はないので、養育費の支払いを強制することはできませんし、勧告を無視しても罰則はありません。
履行命令を申し立てる
履行勧告を行っても支払われないときは、「履行命令」を申し立てます。
履行命令とは、家庭裁判所の手続きで養育費等の支払いが決まったにもかかわらず支払わない者に対し、家庭裁判所が期限を決めて「支払え」と命令をする手続きです。正当な理由なく命令に従わない場合には、10万円以下の過料に処せられることがあります。履行命令の申立てができるのは、履行勧告と同様、家庭裁判所の手続きで養育費の取り決めを行った場合です。
履行命令では、裁判所から支払いの命令を出し、従わないときは過料に処すことができます。しかし、支払いを強制することまではできないので、強制的に未払い養育費を回収したいなら、「強制執行」の手段をとる必要があります。
強制執行を申し立てる
以上の手段を使っても相手が支払いに応じないなら、最終手段として裁判所に「強制執行」を申し立てます。債務名義があれば申立て可能なので、家庭裁判所の手続きで養育費を決めた場合のほか、夫婦同士で話し合って養育費を決め、「強制執行認諾文言付の公正証書」を作成していた場合も申し立てることができます。
養育費の強制執行(財産の差押え)を申し立てる際には、「相手の住所」と「差し押さえたい財産の情報」を調べる必要があります。「差し押さえたい財産の情報」とは、具体的には次のようなものです。
- 給与:勤務先の情報(名称・所在地)
- 預貯金:口座の情報(金融機関名・支店名)
裁判所は、元配偶者がどのような財産を有しているか把握していないため、差し押さえたい財産を明らかにする必要があるのです。
養育費が免除・減額されるケースがある
養育費を決めた時から何かしらの事情の変更があり、養育費の金額が現在の実情に合わなくなった場合、事情によっては、養育費が免除・減額されることがあります。具体的にどのようなケースで免除・減額される可能性があるのか、確認していきましょう。
免除されるケース
受け取る側が再婚し、再婚相手と子供が養子縁組をした
養親となった再婚相手が子供の扶養義務を第一に負い、養育費を負担することになります。そして、再婚相手の収入でカバーできない分の養育費は、元配偶者が負担します。そのため、再婚相手の収入次第では、免除となる場合もあるのです。
子供が就職した
子供が大学に進学することを想定して、養育費の取り決めをしていたご家庭もあるでしょう。しかし、実際には大学に進学せずに就職した場合、子供は経済的に自立できたとして、養育費の免除が認められる可能性があります。
減額されるケース
支払う側がリストラされたり、怪我や病気をしたりして、収入が大幅に減った
養育費を決めた当時では予想できなかった事態が起き、やむを得ず支払う側の収入が減ってしまった場合には、減額が認められる可能性があります。
支払う側が再婚し、扶養家族が増えた
支払う側が再婚して扶養家族が増えた場合、これまでどおり養育費を支払っていたら、負担は大きくなってしまいます。そのため、減額されることがあるのです。
受け取る側が就職したり、パートから正社員になったりなどして、収入が大幅に増えた
養育費の金額は、お互いの収入をベースに決めます。そのため、離婚後、受け取る側の収入が大幅に増えれば、減額が認められる余地があります。ただし、収入が増えることを見越して養育費の取り決めをしていた場合には、減額は難しいでしょう。
未払い養育費の時効は5年または10年
未払い養育費を請求する権利には時効があり、次のように、養育費の取り決め方法によって時効期間は異なります。なお、どちらも「支払日の翌日」から数えます。
取り決め方法 | 時効期間 |
---|---|
夫婦間の話し合い (公正証書を作成していた場合も含む) |
5年 |
調停・審判・裁判といった裁判所の手続き | 10年 ※裁判所の手続きが確定した時点で、すでに支払日を迎えていた分のみ。以降に発生する将来分は、「5年」となる。 |
養育費は、「毎月○万円」というかたちで支払っていくのが一般的です。その場合、養育費が未払いとなった月ごとに請求権は発生し、順々に時効にかかっていくようになります。
養育費を払わない元配偶者へ強制執行をお考えならば、経験豊富な弁護士にご相談ください。
養育費について取り決めたにもかかわらず、元配偶者が払わない場合、適切な対処法をとれば未払い養育費を回収できる可能性があります。最も強力な方法が「強制執行」ですが、利用するためには相手の財産を調査しなければならず、状況によっては債務名義を取得する必要が生じることもあります。
このように、強制執行は決して簡単なものとはいえませんので、ご不安がある方は弁護士の力を借りるといいでしょう。財産の調査を含め、強制執行のために必要な手続きをサポートしてもらったり、代わりに行ってもらったりすることができます。
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- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)