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アルコール依存症の配偶者と離婚|慰謝料請求や必要な証拠について

弁護士法人ALG 福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治

監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates

配偶者のアルコール依存症に悩み、離婚を考える方もいらっしゃいます。
アルコール依存症の治療を支えていくのには相当な労力がいりますし、アルコール依存症になったことで相手が仕事を辞めて家計が苦しくなったり、暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりなどすることもあります。「この先夫婦関係を続けていけるだろうか…」と不安に感じられるのも当然です。

それでは、配偶者のアルコール依存症を理由に離婚することはできるのでしょうか?そもそもアルコール依存症とは何なのか、慰謝料は請求できるのかなども含め、詳しく解説していきます。

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アルコール依存症とは

アルコール依存症とは、お酒の飲み方をコントロールできず、お酒を飲まずにはいられない状態のことをいいます。単にお酒を飲む量が多いからといって、必ずしもアルコール依存症であるとは限りません。アルコール依存症の特徴としては、家族や仕事などよりも、飲酒を優先するようになることが挙げられます。

WHO(世界保健機関)が定めているアルコール依存症の診断基準は、下表の6項目です。過去1年の間に、6項目のうち3項目以上が同時に1ヶ月以上続いた、または繰り返し出現した場合には、アルコール依存症と診断されます。

①渇望 飲酒したいという強い欲望あるいは切迫感がある。
②飲酒行動のコントロール 飲酒行動(飲酒の開始・終了、飲酒量の調節)に関して、自分の意志で制御することが困難である。
③離脱症状 断酒あるいは減酒したときに、離脱症状(手が震える、汗をかく、眠れない、不安になる等)がある。
④耐性の増大 お酒を飲み続けるうちに、次第にお酒に強くなった、あるいは高揚感を得るのに必要な飲酒量が増えた。
⑤飲酒中心の生活 飲酒のために本来の生活(仕事、家族との交流、友人との付き合い、趣味等)を犠牲にする。
アルコールの影響からの回復に要する時間(=酔いからさめる時間)が長くなった。
⑥有害な使用に対する抑制の喪失 心身に明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、飲酒を続ける。

アルコール依存症の症状

アルコール依存症の症状は、進行度によって変わります。進行度に沿って具体的な症状の例をまとめると、下表のようになります。

アルコール依存症の進行度 症状
初期 お酒を飲まないと落ち着かない、少量の飲酒では満足できない、といった精神依存が始まる。
中期 飲酒をやめると、手の震え、発汗、不眠、イライラなどの離脱症状が出てくる。
後期 飲酒をやめたときの離脱症状として、幻覚や幻聴などが出現し、仕事や私生活に支障をきたすようになる。

アルコール依存症を理由に離婚できるのか

アルコール依存症になると配偶者よりも飲酒を優先しがちなこともあり、アルコール依存症の人の離婚率は高いといわれています。
それでは、アルコール依存症を理由に離婚できるのかどうかですが、「夫婦間の話し合い(協議)」によって夫婦双方が離婚に合意すれば、離婚することができます。

夫婦の意見が合わなかったり、そもそも話し合いにすら応じてくれなかったりした場合には、「離婚調停」を行うことになります。家庭裁判所の調停委員を間に挟んで話し合い、基本的にお互いの合意が成立すれば、離婚することができます。理由は問われないので、アルコール依存症が理由でも離婚は可能です。

「協議」や「調停」を行っても合意できない場合、最終的な手段として「離婚裁判」を行うことになりますが、裁判では、アルコール依存症のみを理由に離婚することは難しいでしょう。詳しくは次の項目で解説していきます。

離婚裁判でアルコール依存症は離婚事由として認められるのか

離婚裁判では、夫婦の合意は必要なく、裁判所が離婚するかどうかを決めます。裁判所に離婚が認められるためには、民法で定められている次の5つの離婚事由(法定離婚事由)のいずれかが必要です。

  • ①配偶者に不貞な行為があったとき
  • ②配偶者から悪意で遺棄されたとき
  • ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
  • ④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
  • ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

「配偶者がアルコール依存症だから」という理由だけでは、離婚事由として認められるのは難しいです。しかし、アルコール依存症をきっかけに発生した事情によっては、離婚事由に該当する可能性があります。どの事由に該当する可能性があるのか、続けてみていきましょう。

なお、法定離婚事由については、下記のページで詳しく解説しています。こちらもぜひご覧ください。

アルコール依存症は回復の見込みがない強度の精神病?

アルコール依存症は精神疾患であるため、「回復の見込みがない強度な精神病」(離婚事由④)に当てはまるようにも思えますが、アルコール依存症は、ここでいう“精神病”にはあたらないとされています。該当するのは、統合失調症や躁うつ病などです。

また、アルコール依存症は、本人の努力や家族の協力によって回復できる可能性がある病気であるため、まずは夫婦で協力して治療に臨むことが求められるでしょう。

悪意の遺棄にあてはまる?

アルコール依存症のせいで、仕事を辞めた、収入が減った、お酒の購入に浪費している、などの状況になっている場合もあるかと思います。このような場合、生活費も渡されず、家事や育児にも協力してくれなければ、「悪意の遺棄」(離婚事由②)に該当すると認められる可能性があります。

悪意の遺棄とは、正当な理由もなく、夫婦の同居・協力・扶助義務を果たさないことをいいます。先ほどの例では、協力して助け合うことができていない、つまり、夫婦の協力・扶助義務を果たせていないと判断され得るでしょう。

婚姻を継続し難い重大な事由にあてはまる?

配偶者がアルコール依存症で、お酒を飲むと暴力を振るわれる(=DVを受けている)という事情があるなら、その暴力行為が、「婚姻を継続し難い重大な事由」(離婚事由⑤)に当てはまる可能性があります。

また、アルコール依存症が原因で夫婦仲が悪くなり、夫婦関係が破綻してしまった場合にも、婚姻を継続し難い重大な事由があると判断してもらえることがあります。

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アルコール依存症の配偶者と離婚するときの慰謝料

アルコール依存症の配偶者と離婚するとき、配偶者に“不法行為”があれば慰謝料を請求できます。この点、アルコール依存症は不法行為とはいえませんので、「配偶者がアルコール依存症だから」という理由だけでは、慰謝料は請求できません。

ただし、アルコール依存症がきっかけで暴力を振るわれている場合には、暴力が不法行為にあたるため、慰謝料請求が可能です。このように、状況によっては慰謝料を請求できるケースもあります。裁判所に慰謝料請求が認められるには、暴力が振るわれていることがわかる証拠など、相手の不法行為を証明する証拠が必要です。

なお、アルコール依存症の配偶者が、任意で慰謝料の支払いに応じてくれるのなら、どのような理由でも慰謝料をもらうことができます。

アルコール依存症の配偶者に離婚慰謝料を請求する流れ

アルコール依存症の配偶者への離婚慰謝料の請求は、通常の離婚のケースと同様、次のような流れで進めていくのが一般的です。

  1. ①当事者間で話し合う(協議)
  2. ②「離婚調停」で話し合う
  3. ③「離婚裁判」で判断を下してもらう

ここに記載した流れは、離婚と併せて慰謝料を請求する流れですが、時効にかかっているなどの事情がなければ、離婚後でも慰謝料を請求することはできます。この点も含め、下記のページでは、離婚慰謝料を請求する方法と流れについて詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。

なお、裁判所を介さずに当事者間で話し合って離婚慰謝料について取り決めた場合、後に「言った」「言わない」の水掛け論になるおそれがあるため、合意内容はきちんと書面に残し、公正証書のかたちにしておくことをおすすめします。

アルコール依存症の配偶者と離婚するためには証拠が重要

アルコール依存症の配偶者と離婚するためには、アルコール依存症がきっかけで法定離婚事由にあたる事情が発生していることを示す、客観的な証拠が重要になってきます。

例えば、アルコール依存症のせいで暴力を振るわれたり、暴言を吐かれたりしていることを法定離婚事由として主張するときは、次のようなものが証拠になり得ます。

  • 暴力を振るわれている・暴言を吐かれている様子を録画・録音したデータ
  • 暴力によって負った怪我の写真
  • 診断書(怪我をした場合、精神疾患にかかった場合など)

相手が「そんなことしていない」などと事実を認めず、最終的に裁判になったとき、証拠がないと離婚を認めてもらうのは難しくなってしまいます。証拠は慰謝料を請求する際にも必要ですので、離婚を考えたときはきちんと集めておきましょう。

離婚の同意が得られなければ別居してみる

離婚するためには、まずは当事者間で話し合い、「協議」による離婚を目指すことから始めるのが一般的な流れです。もし、配偶者から離婚の同意を得られなければ、別居してしばらく距離を置き、冷静に考える時間を作るのも一つの手です。別居の注意点については、下記のページをご覧ください。

アルコール依存症が子供に与える影響

アルコール依存症は、夫(妻)にだけではなく、子供にも影響を与えてしまうおそれがあります。
親の酔っぱらっている姿ばかり見ていたら、不信感が募るでしょう。また、子供の前で酔っぱらった父親が母親に暴力を振るったり、怒鳴りつけたりするといったように、「面前DV」があった場合、子供の心に大きな傷を残してしまうかもしれません。

家庭内トラブルで心に傷を負ったまま大人になった、いわゆるアダルトチルドレンは、大人になってからも過去のトラウマをひきずり、生きづらさを感じることもあるようです。

こうした子供への影響を心配し、アルコール依存症の配偶者との離婚を決意する方もいらっしゃるでしょう。

面前DVについては、下記のページでも解説しています。ぜひご覧ください。

アルコール依存症が理由の離婚に関するQ&A

Q:

アルコール依存症の妻が、離婚時に親権を獲得することはありますか?

A:

アルコール依存症と一口に言っても、程度には個人差があります。軽度のアルコール依存症の妻で、子供の監護・養育に問題がなければ、その妻が親権を獲得することもあるでしょう。

Q:

アルコール依存症の配偶者からの暴力で離婚し、慰謝料請求をしたけれど払ってもらえない場合はどうしたらいいですか?

A:

離婚後、当事者間で話し合っても相手が慰謝料請求に応じないときは、まずは書面を送って慰謝料を請求しましょう。それでも払ってもらえないときは、「裁判」(損害賠償請求訴訟)を起こし、裁判所に判断を求めるというのが、一般的な流れです。

裁判所に慰謝料請求が認められれば、相手が「慰謝料を払いたくない」と言ってきても、慰謝料を獲得できます。ただし、慰謝料請求が認められるのは、アルコール依存症の配偶者から暴力を受けた、配偶者のアルコール依存症が主な原因で婚姻関係が破綻したなどの事情がある場合です。

なお、裁判で慰謝料請求が認められたにもかかわらず、相手が払ってこない場合は、「強制執行」の手続をとるという方法があります。強制執行をすれば、相手の財産を差し押さえるなどして、未払いの慰謝料の回収を図れます。

アルコール依存症の配偶者とスムーズに離婚するためにも弁護士にご相談ください

配偶者がアルコール依存症になってしまい、離婚したいと考えたときは、一度弁護士に相談することをおすすめします。弁護士なら、どのように離婚の手続きを進めていけばいいのか、適切に判断してアドバイスできます。また、アルコール依存症の配偶者との交渉を代わりに行うことや、裁判で代理人として主張・立証していくことも可能です。

アルコール依存症の人は、自分がアルコール依存症だとは認めない傾向にあります。そのため、離婚したいと求めても、なかなか応じてくれないケースも珍しくありません。スムーズに離婚を成立させるためにも、アルコール依存症の配偶者との離婚についてお悩みの方は、まずは弁護士にご相談ください。

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保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)

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