母子(父子)家庭への医療費の助成金について│ひとり親家庭等医療費助成制度など
監修福岡法律事務所 所長 弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates
現在、日本では、すべての国民に公的医療保険への加入が義務付けられており、年齢や所得によって、1割から3割の自己負担で保険診療を受けることができます。
しかし、離婚して、おひとりで子供を養育されているご家庭の中には、医療費の自己負担金の支払いでさえ、大きな負担となっているケースもあるでしょう。
そのような経済的に苦しい状況にあるひとり親家庭に対し、さらに医療費の助成を行う制度として、「ひとり親家庭等医療費助成制度」があります。
お住まいの地方自治体によって、細かな助成金額や適用条件などは変わってきますが、今回は、このひとり親家庭等医療費助成制度の全体像について、解説していきます。
(※制度の解説内容は、2022年5月時点のものです。)
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ひとり親家庭等医療費助成制度について
現在、日本では、公的医療保険制度により、小学校1年生から70歳に達するまでの間は、基本的には3割の自己負担で保険診療を受けることができます。
ひとり親家庭等医療費助成制度は、父子家庭・母子家庭などのひとり親家庭に対し、この3割の自己負担額の全部または一部を、お住まいの地方自治体が負担する制度です。
18歳に到達した後の最初の3月31日が到来するまでの児童や、その児童を養育しているひとり親などが対象です。
制度の適用を受けるためには居住地の地方自治体への申請が必要であり、家族状況の実態や収入状況によっては、制度の対象外となる可能性もあります。
助成を受けられる人と子供の年齢
助成が受けられる児童とひとり親などの条件は、主に以下のとおりです。
【児童の条件】
●18歳に到達した後の最初の3月31日まで
(なお、東京都や横浜市など、自治体によっては、特例として、一定程度の障害を有する児童の場合は、20歳未満までが助成の対象となるところもあります。)
【ひとり親などの条件】
●ひとりで児童を育てている父または母
●両親のいない児童を育てている養育者
なお、前々年度の所得が各地方自治体が定めた所得制限を超過している場合は、制度の適用対象外となり、助成は受けられません。
具体的な所得制限の額や、その他制度の適用対象外となる可能性のあるケースについては、以下、本記事内で別途解説いたします。
所得制限
ひとり親家庭等医療費助成制度の適用には、多くの地方自治体が所得制限を設けています。
世帯の前々年度の所得額が一定額以上だと、この制度の助成を受けることができません。
例えば、東京都中央区の場合は、以下の所得制限が設けられています。
なお、「所得額」とは、勤め先からの給与や自営業の売上金などの「収入」から、「給与所得控除」や「必要経費」など、各種の控除を差し引いた金額をいいます。
扶養親族等の人数 | 本人(請求者)の所得制限 | 被扶養義務者・配偶者の所得制限 |
---|---|---|
0人 | 192万円 | 236万円 |
1人 | 230万円 | 274万円 |
2人 | 268万円 | 312万円 |
3人 | 306万円 | 350万円 |
4人以降 | 扶養が1人増すごとに38万円加算 |
助成を受けられないケース
地方自治体によって条件は異なりますが、以下の条件に該当する場合、ひとり親家庭等医療費助成金の適用を受けられない可能性があります。
- 前々年度の所得が、地方自治体が定める所得制限を超過している場合
- 申請者及び児童が、健康保険に加入していない場合
- 婚姻の届出はしていないが、事実婚状態の相手がいる場合
- 児童が里親に預けられていたり、児童福祉施設に入所したりしている場合
- 生活保護を受けている場合
(生活保護受給者は医療費扶助を受けることができ、医療費を負担する必要がありません。そのため、医療費の負担を減じるというひとり親家庭等医療費助成金は必要なく、この制度の対象からは外れています。)
助成対象となる医療費
病院で診察を受けるときや、薬局で薬の処方を受けるときにかかる費用は、窓口で健康保険証を提示することで、基本的には3割の自己負担で済みます(小学校1年生~70歳未満まで)。
ひとり親家庭等医療費助成制度の対象となる医療費は、このような、公的医療保険制度が適用される保険診療の一部負担金です。
例えば、
●保険医療機関での治療費、通院費、入院費
●保険薬局から処方された薬剤費
●治療用装具などの一部負担金
などが該当します。
なお、交通事故による怪我を、公的医療保険を利用して治療した場合にかかった一部負担金は、基本的には、助成の対象となります。
ただし、地方自治体によっては、事前の確認が必要なケースや、各種の届出が必要となるケースがあるため、あらかじめお住まいの地方自治体に確認するようにしましょう。
助成対象とならない医療費
ひとり親家庭等医療費助成制度の適用対象外である費用の代表的な例として、以下のものが挙げられます。
なお、地方自治体によっては助成の対象となるところもありますので、詳しくはお住まいの地方自治体の制度をご確認ください。
- 公的医療保険が適用されない診療など
(差額ベッド代、予防接種、健康診断、薬の容器代、紹介状を持たずに受診した200床以上の病院の初診料、美容整形手術やレーシック・歯列矯正などの自由診療) - 入院時食事療養・生活療養標準負担額
- 高額療養費・家族療養附加金などの該当分
- 他の公費医療で助成される医療費
受給者の負担額
受給者が助成を受けられる内容や金額は、各地方自治体によって、また、住民税課税世帯か非課税世帯かによって異なります。
例えば、東京都では、
【住民税課税世帯】
●医療費…1割負担
●通院…1ヶ月18,000円、年間144,000円が自己負担の上限
●入院…1ヶ月57,600円、多数回該当の場合は1ヶ月44,400円が自己負担の上限
【住民税非課税世帯】
●自己負担なし
となっています。
そのほか、福岡市では、
●通院…小・中学生は1医療機関あたり1ヶ月500円まで
高校生世代~親は1医療機関あたり1ヶ月800円まで が自己負担の上限
●入院…小・中学生は自己負担なし
高校生世代~親は1医療機関あたり1日500円までが自己負担の上限(7月回まで)
●薬局での自己負担はなし
となっています。
このように、助成内容は自治体によって様々です。
申請手続と助成を受けるまでの流れ
- ひとり親家庭等医療費援助制度を受給するための申請書
- 健康保険証(助成を受ける者の名前が記載されたもの)
- 戸籍謄本
- マイナンバー確認書類
これらが、ひとり親家庭等医療費援助制度の申請手続に必要な基本セットです。お住まいの自治体や個別の状況によって、追加で必要な書類もあるので、必ず事前に役所に確認しておきましょう。
また、申請から助成を受けるまでの基本的な流れは以下のとおりです。
- ① 役所で申請
- ② ひとり親家庭等医療費助成の「受給者証」の交付
(※自治体によって名称は異なりますが、本記事では「受給者証」と表記します。) - ③ 医療機関の窓口で保険証と受給者証を提示して受診する
※申請から受給者証の交付を受けるまで、1ヶ月~数ヶ月かかることがあります。この間に受けた診療は、後日、受給者証の交付後に役所に申請すれば返還してもらえる可能性があります。そのため、領収書は無くさないように保管しておきましょう。
受給者証の使い方 (払い戻しなど)
基本的には、病院での診察時や薬局で薬の処方を受けるときに、窓口で、健康保険証と受給者証の2つを提示すると、その場で、各自治体の制度に則った内容で、助成を受けることができます(現物給付方式)。
お住まいの地域以外の医療機関を受診した場合や、受給者証を提示せずに診療を受けた場合などは、その場では助成は受けられません。一旦、原則どおりの3割の自己負担額を窓口で支払い、後日、お住まいの自治体の役所に申請し、医療助成費分を払い戻してもらう形になります(償還払い)。
償還払いの申請の際は、領収証の提出が必要ですので、大切に保管しておきましょう。また、償還払いの申請には期限があります。期限を過ぎてしまうと医療助成費の払い戻しを受けることはできませんので、申請時の必要書類や申請期限は、なるべく早めに役所に確認しておきましょう。
ひとり親家庭等医療費助成制度の受給資格がなくなるケース
ひとり親家庭等医療費助成制度の申請手続をして受給資格が認められたとしても、場合によっては受給資格がなくなることがあります。例えば、以下のようなケースに該当した場合、受給資格がなくなり、受給者証の返還を求められるでしょう。
- 申請手続をした市区町村外へ転出するとき
(転出先の市区町村で新たに申請手続を行う必要があります。) - 生活保護を受けるようになったとき
- 母親または父親が結婚したとき
- 受給者証の有効期間を過ぎたとき
(引き続き助成を受けたい場合は更新手続が必要になりますので、指定された期限内に行うようにしましょう。)
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メールで相談するその他の医療費助成制度について
ひとり親家庭等医療費助成制度のほかにも、こども医療費助成制度や高額療養費制度、国民健康保険の減免制度などのように、患者が負担する医療費の一部や全部を国や地方自治体が負担する医療費助成制度があります。
以下、各医療費助成制度の内容やひとり親家庭等医療費助成制度との関係について、解説します。
こども医療費助成制度
ひとり親家庭に限らず、子育てをしているすべての家庭に対し、子供の健全な育成を促すために、「こども医療費助成制度」という制度を設けている地方自治体もあります。
この制度を利用することで、対象年齢の子供について、保険診療を受けた際にかかる医療費の自己負担分の一部または全額を助成してもらえます。対象年齢は地方自治体によって異なりますが、「0歳~中学校3年生(15歳に達した日以後の最初の3月末日まで)」や「0歳~18歳(18歳に達した日以後の最初の3月末日まで)」としている地域が多いようです。
なお、ひとり親家庭等医療費助成制度による受給者証を交付されていて、医療費の助成を受けることができる場合には、こども医療費助成制度を利用して助成を受けることはできません。
高額療養費制度
高額療養費制度とは、1ヶ月の医療費の自己負担額が限度額を超えた場合に、加入している健康保険の保険者(協会けんぽや健康保険組合など)から、限度額を超えた分(自己負担部分)の医療費(=高額療養費)が支給される制度です。限度額(自己負担部分)は、年齢や所得に応じで定められています。
ひとり親家庭等医療費助成制度との関係では、高額療養費制度の適用が優先されます。ですので、窓口負担部分に対して、ひとり親家庭等医療費助成制度の助成を受けるのではなく、高額療養費制度における自己負担部分に対して、ひとり親家庭等医療費助成制度の助成を受けることができます。
高額療養費制度の詳細については、以下の厚生労働省のサイトも、併せてご確認ください。
国民健康保険料の減免
ひとり親家庭等医療費助成制度と国民健康保険料の減免制度は、併用して適用を受けることができます。
国民健康保険では、倒産、解雇、病気による離職や自然災害に被災したことなどで収入が減少し、生活が苦しくなった場合、申請により、国民健康保険料の支払いを減額、免除または猶予してもらえる制度があります。この制度を利用し、国民健康保険料の支払の減額、免除または猶予を受けている方であっても、ひとり親家庭等医療費助成制度の適用条件に該当していれば、医療費の助成を受けることができます。
減額、免除または猶予されるための条件、金額、申請方法などについての詳細は、お住まいの自治体にご確認ください。
また、以下の記事でも、国民健康保険料の減免制度について紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。
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本ページでは、離婚して母子家庭となった方の参考として、ひとり親家庭に向けた医療費の助成制度について、特に「ひとり親家庭等医療費助成制度」を重点的に解説してきました。しかし、母子家庭や父子家庭を支援するための公的制度は、他にも様々あります。下記のページで紹介していますので、ぜひご覧ください。
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離婚後の養育費請求などでお悩みではありませんか? 弁護士に相談することで解決することもあります
離婚後、8割近くの母子家庭は、父親から養育費が支払われていないという厚生労働省の調査結果があります。
このように、離婚後のひとり親家庭では、養育費の不払いが原因で、経済的に苦しい生活を強いられている方が少なくありません。
経済的に困窮し、医療費の支払いすら負担になっている場合は、まずは、ひとり親家庭等医療費助成制度をはじめとする公的支援制度が利用できないか、お住まいの自治体に確認しましょう。
そして、医療費が払えないほどに生活が困窮する一因として、養育費の不払いがある場合は、弁護士へ相談することをお勧めします。
弁護士の力を借りることで、法的な手段に則り、養育費の支払いが受けられる可能性があります。
「お金がないから病院にも行けない」という最悪の事態に陥る前に、ぜひ一度、弁護士法人ALGにご相談ください。
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- 保有資格弁護士(福岡県弁護士会所属・登録番号:41560)