婚姻費用が払えない時の対処法

弁護士法人ALG 執行役員 弁護士 谷川 聖治
この記事の監修
弁護士 谷川 聖治
弁護士法人ALG&Associates 執行役員

婚姻費用は、受け取る側にとっては別居中の重要な生活費である一方で、支払う側にとっては重い負担であることも事実です。別居によって、それまで1世帯分で済んでいた生活費を、強制的に2世帯分払わされることになるので、ケースによっては自身の生活がかなり苦しくなってしまいます。
一度決めた婚姻費用がどうしても払えなくなってしまった場合、どうすれば良いのでしょうか。注意点や対処法について、このページで解説していきます。

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この記事の目次

婚姻費用が払えないからといって遅延や不払いが続くと……

相手に何の断りもなく婚姻費用の支払いを遅らせたり、不払いを続けたりすると、相手が何らかのアクションを起こしてくる可能性があります。婚姻費用について相手と協議(話し合い)で決めた場合は、合意内容を公正証書のかたちで残していなければ、婚姻費用分担請求調停を申し立てられることになるでしょう。

もしすでに婚姻費用分担請求調停や審判で取り決めをしたようであれば、「履行勧告」や「履行命令」によって、裁判所から支払いを促される可能性があります。どちらの手続きも支払いを強制されるわけではありませんが、履行命令に従わないと10万円以下の過料に処されることがあるので、注意が必要です。

強制執行となる場合も

婚姻費用について、相手と協議の末に公正証書(強制執行認諾文言付きのもの)を作成した場合や、調停や審判で取り決めをした場合、不払いを続けていると、強制執行によって給料や預貯金口座等を差し押さえられてしまうおそれがあります。
強制執行について詳しく知りたい方は、下記のページをご覧ください。

婚姻費用が払えないときにやるべきこと

それでは、資力がなく一度決めた婚姻費用を払えないときには、どうすれば良いのでしょうか。

まずは相手に払えない旨を伝えて、減額できないか交渉しましょう。婚姻費用について協議で決めた場合だけでなく、調停や審判で決めた場合であっても、相手の合意が得られれば取り決め内容を変更することは可能です。その際は、口約束にならないように新たな合意内容を公正証書に残しておくと良いでしょう。

合意が得られないようであれば、婚姻費用減額請求調停を申し立てましょう。ただし、単に取り決めた金額が高いからという理由だけで、減額が認められることはまずありません。取り決めの際に予測できなかった事情変更があり、それをもとに婚姻費用を変更することに必要性相当性がなければ、減額は認められないでしょう。

婚姻費用の減額請求について、詳しくは下記のページをご覧ください。

払えない理由の具体例とそれぞれの対処法

婚姻費用を払えない理由は、人によって様々かと思います。以下でよくあるケースと理由別の対処法について解説していきます。

支払い期日までに間に合わない

支払い期日に間に合わないようであれば、その旨を事前に相手に伝えましょう。無断で遅延することが続くと相手の不信感を招き、強制執行を申し立てられるおそれがあります。

転職により給料日が変わった関係で、支払い期日に間に合わせることが難しくなったような場合は、期日の変更について相手と協議すると良いでしょう。

給料が下がった

勤めている会社の業績不振等で給料が大幅に下がった場合は、婚姻費用の減額請求調停や審判を申し立てることで、減額が認められる可能性があります。ただし、給料が毎年変動するのは当然のことなので、多少減収した程度では難しいでしょう。

また、自営業等、ある程度収入を自身でコントロールできる状況で、正当な理由なく意図的に収入を減らした場合も、減額は認められないと考えられます。

離職した

突然のリストラ等、やむを得ない理由で離職した場合は、婚姻費用の減額請求が認められる可能性が高いです。しかし、稼ぐ能力があるにもかかわらず、取り決め時の職場よりも給料が大幅に下がる職場に転職したような場合は、認められないケースが多いです。

借金がある・自己破産した

基本的に借金があることで、婚姻費用が減額されることはありません。その借金が、夫婦の生活費を賄うために以前から負っていたものであれば考慮される余地はありますが、それでも本来は最初の取り決め時に主張すべきことなので、後からの減額請求を認めてもらうのは容易ではないでしょう。

また、借金がかさみ自己破産をしたとしても、婚姻費用は非免責債権にあたるため、支払い義務がなくなることはありません。ただし、自己破産するほどの経済状況に陥っていることから、減額請求が認められる可能性は高いと思われます。

病気や怪我で長期入院となった

病気や怪我で長期の治療が必要になり、以前のようには働けなくなって収入が減った場合や、高額な治療費を払い続けなければならなくなった場合は、予測不能な事情変更があるとして、婚姻費用の減額請求が認められる可能性は高いといえます。

相手から婚姻費用の増額請求をされた

相手から取り決めた婚姻費用では足りないと、増額請求をされることもあるでしょう。協議による交渉の段階であれば、必ずしも受け入れなければならないわけではありません。

しかし、増額請求の調停や審判では、相手の収入がやむを得ない事情によって減った場合や、相手や相手と一緒に暮らしている子供が、病気や怪我により治療が必要になった場合であれば、増額が認められる可能性があります。

「払えない」とお困りでも、弁護士の介入で解決につながる場合があります

婚姻費用が払えなくてお困りの場合でも、理由によっては減額請求が認められることがあります。ただし、そのためには払えなくなってしまった事情をしっかりと主張し、主張を裏付けるような証拠も準備しなければなりません。

離婚問題に強い弁護士であれば、婚姻費用に関する協議での交渉や、調停・審判における対応に慣れているため、依頼をすることで、ご自身だけで対処するよりも良い結果が望めるでしょう。婚姻費用は別居期間が長引くほど、支払う額も大きくなってしまいます。なるべく早期に問題を解決させるためにも、早めに弁護士に相談することをお勧めします。

婚姻費用の減額請求をすると金額はどのように決まるのか?

婚姻費用の減額請求が認められるのは、基本的に婚姻費用を支払う側の収入が減少した場合や、受け取る側の収入が増加した場合です。そのため、現在の収入を証明する資料をもとに、改めて婚姻費用算定表に双方の収入を当てはめて算出し直すことになります。
婚姻費用算定表について詳しく知りたい方は、下記のページをご覧ください。

そもそも婚姻費用を払わない方法はある?

夫婦には婚姻費用の分担義務があるため、たとえ別居をしていたとしても、同じ戸籍に入っている限りその義務を免れることはできません。しかし裏を返せば、離婚をしさえすれば婚姻費用を払わなくて良くなるということです。

もしあなたが離婚を請求されている側であれば、早めに離婚に応じた方が、支払う婚姻費用の総額は少なく済みます。一方、離婚を請求している側であれば、相手に離婚に応じてもらうよう積極的に交渉する必要があります。ケースによっては離婚調停や裁判を行った方が早期に解決することもありますが、個別の事情によって戦略は変わってくるため、弁護士に相談すると良いでしょう。

婚姻費用が払えないケースの裁判例

事例1 婚姻費用が高すぎるため減額して支払いを続けていたら、未払い分(減額分)を請求された

東京地方裁判所 平成29年7月10日判決

夫が女性とメールのやり取りをしていることを、妻が知ったため夫婦不和になり、妻が子供を連れて家を出ました。別居にあたり、妻は夫に対し、引っ越し費用100万円と婚姻費用20万円を請求し、夫が異議を述べなかったため、夫の同意なく通帳から上記の金額を引き出しました。

その後、夫は妻に、婚姻費用として高すぎると考えつつも、約2年半にわたり毎月20万円に相当する金額を支払いました。しかし、妻に夫婦関係を改善し、別居を解消しようとする意思を感じなかったため、夫は月々の婚姻費用を、子供の養育費相当額である12万円に減額して支払うようになりました。

そこで、妻は婚姻費用の未払い分が存在するとして、452万円を請求する訴訟を地方裁判所に起こしました。ただ、裁判所は、本件では婚姻費用の分担額の合意が成立しているとは認めらないとして、家庭裁判所の手続きで分担額について決定すべきと判断し、妻の請求を却下しました。

事例2 審判で取り決めたとおりの婚姻費用を払っていたが、収入が減り払えなくなった

横浜家庭裁判所川崎支部 平成26年7月1日審判

当該夫婦の間には2人の子供がおり、夫婦の別居後、妻が子供らを監護養育していました。別居の際に妻が婚姻費用分担請求調停を申し立てたところ、最終的に審判に移行し、夫に婚姻費用として毎月10万円の支払いを命じる決定が下されました。

しかし、当時の夫の年収は約486万円だったものの、2年後には約425万円に減少しました。そこで、減収したことを理由に夫が婚姻費用の減額請求調停を申し立てたところ、不成立となったため審判に移行しました。審判では、夫に事情の変更があったものとして、月々の婚姻費用を7万円に減額することが認められました。

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婚姻費用の支払いに関するQ&A

Q:

長期間の別居により、婚姻関係は破綻しています。それでも婚姻費用を払わないといけないのでしょうか?

A:

婚姻関係が破綻しても、生活保持義務(相手の生活水準を自身と同程度に保つ義務)は原則として継続します。そのため、婚姻費用の分担義務を引き続き負うことになりますが、例外として、婚姻関係の破綻や別居について、責任のある者からの婚姻費用分担請求は、信義則上許されないということになります。

長期間の別居について、両者に責任がない場合でも、婚姻費用の分担義務は婚姻関係がある間は生じるので、婚姻費用を支払わないことは許されないと考えられます。しかし、長期間の別居を継続する夫婦は、婚姻関係を維持しようとする努力が両者または片方にない場合が多いので、その責任度合に応じて、ある程度の婚姻費用の減額はあり得ると思われます。

Q:

リストラされ失業保険を受給することになり、婚姻費用がこれまでどおり払えません。減額請求をした場合、婚姻費用はどのように算定されますか?

A:

婚姻費用算定表においては、給与所得者の総収入のうち、標準的な職業費として約20%を控除することを前提として基礎収入を算出しています。つまり、給与所得者として仕事をしている人は、就労するために必要な出費として被服代等がかかりますが、失業保険を受給している間は、仕事はしていないので被服代等の負担がなく、算定表で算出した金額を修正する必要があるということです。

減額請求の際の計算方法のひとつとしては、失業保険として受給した金額について、約0.8で除した金額を総収入として、算定表に当てはめる方法があります。

婚姻費用の支払いが苦しくても解決できる可能性があります。弁護士にご相談ください。

弊所でも、「婚姻費用が払えなくて困っている」というご相談を多くの方からいただきます。婚姻費用の支払いのために、自身の生活レベルをかなり下げることになってしまったけれど、家を出て行った配偶者と共に生活している子供に対しては愛着があるため、どうにか工面して払っているという方もいらっしゃることでしょう。

婚姻費用の支払い義務を免れることはできないため、払えないのであれば減額請求を認めてもらうしかありませんが、裁判所の手続きでは取り決め時からの事情変更がないと、なかなか厳しいのが現状です。そのため、なるべく協議の段階で相手を説得すべきといえます。弁護士は状況を整理したうえで、相手に対して論理的に交渉を試みます。早期に離婚を成立させるべきケースであれば、それに向けたサポートもさせていただきます。お一人で苦しむ前に、まずは弁護士にご相談ください。

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