養育費を強制執行(差し押さえ)する方法

監修弁護士 谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates 執行役員
離婚して子供と離れて生活することになった親には、子供の面倒を見る親に対し、養育費を支払う義務があります。離婚しても親である以上、子供を扶養していかなければならないからです。
しかし、養育費の支払いについて取り決めをしたにもかかわらず、支払ってこないという問題が発生することがあります。こうした養育費の未払い問題が発生したとき、対処法として最も強力なのが「強制執行」です。強制執行では、相手の財産を差し押さえるなどして、強制的に未払い養育費の回収を図ることができます。
それでは、実際に養育費の強制執行をするとき、どのように手続きを進めていくのでしょうか?このページで詳しく確認していきましょう。
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養育費の強制執行について
強制執行とは、裁判所の手続き等で約束した内容を相手が守らないときに、裁判所を通して強制的に約束を実現させる方法です。強制執行には【直接強制】と【間接強制】の2種類がありますが、より強力なのは、相手の財産を差し押さえる【直接強制】です。(本ページでは、直接強制を行うことを前提に説明していくこととします。)
養育費の強制執行をする際には、申立書のほか、少なくとも「債務名義の正本」と「送達証明書」が必要になります。“債務名義”とは、相手に請求するものがあることを証明し、強制執行を可能にする文書のことで、公正証書(※強制執行認諾文言が付いたもの)などが例として挙げられます。また、“送達証明書”とは、債務名義が相手のもとに送達されたことを証明する文書のことです。送達証明書は、債務名義を作成した裁判所・公証役場で発行してもらいます。
養育費の強制執行は将来の支払い分まで差し押さえることができる
養育費の強制執行では、未払い分だけではなく、将来の支払い分についても差し押さえることができます。そのため、一度の申立てで将来の支払い分まで差し押さえることが可能になり、毎月の支払期限が来る度に強制執行の申立てをする手間が省けます。
ただし、未払い分についてはまとめて支払いを受けられますが、将来分については、支払期限が到来した後でないと支払いを受けられません。例えば、給料日が毎月25日、養育費の支払期限が毎月末日の場合、7月分の養育費については支払期限が7/31になりますので、7/25に支給された給料からは支払いは受けられず、8/25に支給された給料から支払いを受けられることになります。
養育費の強制執行で差し押さえることができる金額
給料を差し押さえるにあたり、通常は手取り額の4分の1までしか差し押さえることができませんが、養育費の場合、半分まで差し押さえることができます。
また、手取り額が66万円を超えるときは、手取り額から33万円を引いた全額を差し押さえることが可能です。
養育費の強制執行前にやっておくこと
養育費の強制執行を申し立て、相手の財産を差し押さえるためには、あらかじめやっておかなければならないことがあります。具体的には次の3つです。
- 債務名義の取得
- 相手の住所の把握
- 相手の財産の確認
以降で詳しく確認していきましょう。
債務名義の取得
養育費の強制執行を行う際には、養育費の取り決め内容が記載された「債務名義」を取得しておく必要があります。
具体的には、次のような文書が債務名義となります。
公正証書 | 公証役場の公証人に作成してもらう文書。 ※強制執行するためには、”強制執行認諾文言“の記載が必要。 |
---|---|
調停調書 | 家庭裁判所の調停委員会を通して話し合う、「調停」が成立した場合に作成される文書。調停で合意した内容が記載されている。 |
審判書 | 裁判官がすべての事情を考慮したうえで審判をし、その内容が記載された文書。 |
判決 | 裁判(訴訟)を行い、裁判所が下した判断の内容が記載された文書。 |
和解調書 | 裁判の途中で双方が和解をした場合に作成される文書。和解内容が記載されている。 |
相手の住所の把握
強制執行をするためには、相手が現在暮らしている住所を把握しておく必要があります。
相手の住所がわからないときは、弁護士に依頼して調査してもらうことを検討してみてください。弁護士なら、職務に必要な範囲であれば、第三者の住民票や戸籍の附票などを取り寄せることが認められているので、それらの資料から住所が判明する可能性があります(これを「職務上請求」といいます)。また、弁護士会照会によって、相手の住所を調べられる可能性もあります。
相手の財産の確認
給料なら勤務先、預貯金なら銀行名と支店名といったように、強制執行を行うには差し押さえたいと考える相手の財産を特定しなければなりません。
差し押さえることができる財産は、「不動産」「動産」「債権」の主に3つです。具体的な内容は、次のとおりです。
不動産 | 土地、家、マンションなど |
---|---|
動産 | 車、家具、宝石、現金、有価証券など ※生活に欠かせない家具や衣服、66万円までの現金(2ヶ月分の生活費)などは差押えの対象外。 |
債権 | 給料、預貯金など |
法改正により養育費の強制執行が容易になった
強制執行をするにあたっては、差し押さえる相手の財産を明らかにする必要があります。この点、2020年4月1日の民事執行法の改正によって相手の財産を特定しやすくなり、以前よりも強制執行が容易になっています。法改正で変わったのは、主に次の2点です。
- 財産開示手続の整備
「財産開示手続」は、相手を裁判所に出頭させ、自身の財産について陳述させる手続きです。今回の法改正により、無視した場合などの罰則が強化され、利用できる範囲は公正証書を持つ者まで含まれるようになりました。 - 第三者からの情報取得手続の新設
裁判所を通し、役所や金融機関といった第三者から勤務先や口座に関する情報などを提供してもらう、「第三者からの情報取得手続」という制度が新たに作られました。
養育費の強制執行の手続き
それでは、ここからは実際に強制執行を申し立てる際の手続きの流れに関して、必要となる書類も含め説明していきます。
強制執行に必要な書類
裁判所に強制執行の申立てをするときは、主に次のような書類の提出が必要となります。
必要書類 | 解説 |
---|---|
申立書 | 「①表紙」「②当事者目録」「③請求債権目録」「④差押債権目録」の4つが申立書のセットになる。 |
債務名義の正本 | 強制執行認諾文言付きの公正証書、調停調書、審判書、判決といった「債務名義」の正本が必要。 |
送達証明書 | 債務名義の正本または謄本が相手に送達されたことを証明する、「送達証明書」が必要。 ※債務名義のうち“審判書”の場合は、「確定証明書」も必要。 |
戸籍謄本(全部事項証明書)、住民票、戸籍の附票 | 氏名や住所が、債務名義に記載されたものと現在とで異なる場合に必要。 |
法人の資格証明書(法人の登記事項証明書または代表者事項証明書) | 給料を差し押さえるケースなどで、差押え先が法人の場合に必要。 |
「申立書」については、下記のように、ウェブ上で書式や記載例を掲載している裁判所もありますので、作成する際に利用することができます。
強制執行の手続きの流れ
申立てに必要な書類が準備できたら、強制執行の手続きに進んでいきます。手続きの内容は、差し押さえたい財産の種類によって異なる部分があります。養育費の強制執行では、給料や預貯金などの「債権」の差押えがメインとなるケースが多いため、今回は「債権を差し押さえる場合」を前提にして、主な手続きの流れを確認していきます。
①裁判所に対する強制執行の申立て
まずは、準備した必要書類を裁判所に提出し、強制執行の申立てをします。債権を差し押さえる場合は、基本的に相手の住所地を管轄する地方裁判所が申立先となります。
また、申立時には次の費用も必要です。
- 申立手数料:4000円分の収入印紙(債務名義1通・債権者1名・債務者1名の場合)
※債務名義・債務者・債権者が複数になると金額は増えますので、申立先に確認することをおすすめします。 - 郵便切手:必要な金額・切手の内訳は、裁判所によって異なる。
②差押命令
裁判所に提出した書類に不備がなく、申立て内容が認められれば、裁判所から債権の差押命令が出されます。そして、債務者(相手方)と第三債務者(勤務先や金融機関など)に「差押命令」が送達されます。
差押命令は、送達されたときから効力が生じ、勤務先が差し押さえられた分の給料を債務者に支払ったり、債務者が口座からお金を引き出したりすることなどは禁止されます。したがって、給料日の前や、大きな入金がなされた直後などに差押命令が送達されるよう、タイミングに注意して手続きを進めることが重要です。
③取り立て
差押命令が送達された日から1週間が経つと、債権の取り立てができるようになります。一般的には、次のようなかたちで取り立てていきます。
【給料の差押えの場合】
勤務先に連絡して支払い方法を指定し、差し押さえた金額に達するまで、相手方の給料から天引きして支払ってもらう。
【預貯金の差押えの場合】
金融機関に連絡して支払い方法を指定し、相手方の口座の残高から、差し押さえた分の金額をまとめて支払ってもらう。
④裁判所への報告
取り立てを行ったら、その度に裁判所に「取立届」を提出して、いくら回収できたかを報告する必要があります。差し押さえた分の全額を回収できた場合は、「取立完了届」を提出します。
なお、一部しか回収できず、これ以上取り立てを継続するのではなく別に強制執行の申立てをする場合には、「取下書」を提出して今回の手続きを終了させます。このとき、「債務名義等還付申請書」も提出すれば、債務名義の正本と送達証明書を返してもらえるので、次回の強制執行の申立て時に使用することができます。
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メールで相談する養育費の強制執行を行う際の注意点と対処法
養育費の強制執行の手続きを行ったからといって、必ずしも全額を回収できるとは限りません。例えば、以降のケースでは、未払い養育費の回収は難しくなることが予想されます。
なお、書類に不備があったとしても、裁判所の指示に従って訂正すれば済む話ですので、それだけで強制執行できなくなってしまう心配はありません。
相手の住所や居所がわからないケース
相手の現住所がわからないケースでも、弁護士に依頼した場合、住民票などを調査し、債権の差押命令を申し立てるべき裁判所に対し、強制執行を申立てることは可能です。ただし、差押命令は相手に送達されなければならないところ、相手の現住所がわからない場合、住民票上の住所や最後の居所などの現地を調査するなど、送達のためにやや面倒な手続きが必要になり、通常よりも時間がかかってしまいます。
相手が退職していたケース
給料を差し押さえたものの、後に相手が退職してしまった場合、その給料に対する差押えの効力は消えてしまいます。そのため、退職するまでの給料分からしか、未払い養育費の回収はできません。
このような場合には、今回の強制執行は取り下げ、相手の新たな勤務先を見つけるか、ほかの財産を探して別に強制執行の申立てをすることになります。
預金口座の残高不足
預貯金を差し押さえた場合、差し押さえた分を預金口座からまとめて取り立てます。つまり、1回の差押えで取り立てることができるのは1回だけだということです。そのため、差押命令が送達された時点における、預金口座の残高が不足していたら、一部は回収できなくなってしまいます。
預金口座の残高不足で全額を回収できずに手続きを終了したときは、相手の口座に新たな入金がなされるまで待ち、再び預貯金の差押えをしていくか、ほかの財産を差し押さえることなどを検討することになるでしょう。
養育費の強制執行の手続きに関するよくある質問
- Q:
離婚公正証書を作成していなかったら強制執行はできませんか?
- A:
離婚の際に公正証書を作成していなかった場合でも、改めて養育費の取り決めをして債務名義を取得すれば、強制執行はできます。離婚後、元配偶者と直接話し合うのは難しいことが予想されますので、まずは裁判所に「養育費請求調停」を申し立てることから始めるのが一般的です。調停が成立すれば、「調停調書」という債務名義が手に入ります。
「養育費請求調停」については、下記のページで詳しくご紹介していますので、こちらもぜひご覧ください。
- Q:
相手の会社に強制執行を拒否されても養育費を回収することはできますか?
- A:
給料を差し押さえて相手の会社に取り立てをしたところ、支払いを拒否されてしまった場合は、会社に対して「取立訴訟」を起こし、裁判で支払いを求めていく必要があります。その結果勝訴すれば、差し押さえている分の養育費を回収することができます。退職している等の事情がないのなら、裁判で負けることは考えにくいでしょう。
養育費の強制執行の手続きは弁護士にご相談ください
養育費の強制執行の手続きを行うにあたっては、準備しなければならない書類が様々ありますし、差押えの対象となる相手の財産を調べて特定しなければなりません。これらの作業をすべてご自身だけで行うのには、相当な労力がかかるでしょう。
そこで、弁護士に依頼すれば、書類の作成や財産調査のための手続きはもちろん、強制執行の申立て手続き自体も、代わりに行ってもらうことができます。
強制執行の手続きをするのに時間がかかればかかるほど、養育費が支払われない状況が続くことになり、生活が苦しくなってしまう事態も起こり得ます。養育費の未払いが発生したため、強制執行して相手の財産を差し押さえたいと考えたときは、まずは弁護士にご相談ください。早期に問題を解決できるよう、懸命にサポートさせていただきます。
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- 監修:谷川 聖治弁護士法人ALG&Associates 執行役員 弁護士
- 保有資格弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:41560)